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論文 · arXiv 2508.02739

Kronos: 金融市場の言語のための基盤モデル

Kronos: A Foundation Model for the Language of Financial Markets

公開日 q-fin.STcs.AIcs.LG arXivPDF

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3行まとめ

  1. 📌 汎用的な時系列基盤モデルは、低いS/N比、非定常性、事前学習コーパスにおける金融データの少なさが原因で、金融ローソク足(K-line)データの扱いに苦慮しています。
  2. 📌 Kronosは2段階のフレームワークを導入しています。Binary Spherical Quantizationを用いたTransformerトークナイザーが各6次元OHLCVAバーを階層的なcoarseおよびfineサブトークンへと分解し、自己回帰デコーダーがサブトークンを順次予測します。
  3. 📌 世界45取引所の120億件以上のK-lineレコードで事前学習されたKronosは、ゼロショットの価格系列予測において、主要な基盤モデル比でRankICを93%、最良の非事前学習ベースライン比で87%改善しました。

概要

大規模言語モデル(LLM)に代表される大規模事前学習パラダイムの成功は、時系列基盤モデル(TSFM)の開発を促してきました。しかし、金融のローソク足(K-line)データへの適用は依然として限定的であり、非事前学習型のアーキテクチャを下回ることも少なくありません。さらに、既存のTSFMはボラティリティ予測や合成データ生成といった極めて重要なダウンストリームタスクを見落としがちです。これらの課題に対処するため、金融K-lineモデリングに特化した統合型かつスケーラブルな事前学習フレームワークであるKronosを提案します。Kronosは、連続的な市場情報をトークン系列へと離散化し、価格ダイナミクスと取引活動パターンの双方を維持する特殊なトークナイザーを導入しています。世界45の取引所から収集した120億件を超えるK-lineレコードからなる大規模マルチマーケットコーパス上で、自己回帰目的関数を用いてKronosを事前学習することで、微細な時間的特徴およびクロスアセット表現の学習を可能にしました。Kronosは、多様な金融タスクにおいてゼロショット設定で優れた性能を発揮します。ベンチマークデータセットにおいて、Kronosは価格系列予測のRankICを主要なTSFM比で93%、最良の非事前学習ベースライン比で87%向上させました。また、ボラティリティ予測においてMAEを9%削減し、合成K-line系列の生成忠実度を22%向上させています。これらの結果は、Kronosがエンドツーエンドの金融時系列分析のための堅牢で汎用的な基盤モデルであることを示しています。事前学習済みモデルは https://github.com/shiyu-coder/Kronos で公開されています。

英語の原文概要

The success of large-scale pre-training paradigm, exemplified by Large Language Models (LLMs), has inspired the development of Time Series Foundation Models (TSFMs). However, their application to financial candlestick (K-line) data remains limited, often underperforming non-pre-trained architectures. Moreover, existing TSFMs often overlook crucial downstream tasks such as volatility prediction and synthetic data generation. To address these limitations, we propose Kronos, a unified, scalable pre-training framework tailored to financial K-line modeling. Kronos introduces a specialized tokenizer that discretizes continuous market information into token sequences, preserving both price dynamics and trade activity patterns. We pre-train Kronos using an autoregressive objective on a massive, multi-market corpus of over 12 billion K-line records from 45 global exchanges, enabling it to learn nuanced temporal and cross-asset representations. Kronos excels in a zero-shot setting across a diverse set of financial tasks. On benchmark datasets, Kronos boosts price series forecasting RankIC by 93% over the leading TSFM and 87% over the best non-pre-trained baseline. It also achieves a 9% lower MAE in volatility forecasting and a 22% improvement in generative fidelity for synthetic K-line sequences. These results establish Kronos as a robust, versatile foundation model for end-to-end financial time series analysis. Our pre-trained model is publicly available at https://github.com/shiyu-coder/Kronos.

論文解説

課題と動機

金融市場のダイナミクスは、主に始値、高値、安値、終値に出来高と売買代金を加えたローソク足(K-line)データ(、OHLCVA)によって捉えられます。時系列基盤モデル(TSFM)は一般的な予測タスクで進歩を遂げていますが、金融タスクにおいては、特殊化された非事前学習型のディープラーニングアーキテクチャ(iTransformerなど)に劣ることが頻繁にあります。この性能不足は主に2つの要因に起因します。

  1. 金融K-lineは、S/N比が低く、裾が重い分布特性(ファットテール)、極端な非定常性、価格と出来高の強い連動性(価格–出来高カップリング)を持っており、これが汎用的な時間的帰納バイアスと衝突すること。
  2. 主流のTSFMでは訓練データ全体に占める金融データの割合が1%未満(多くは0.01%未満)にとどまり、ボラティリティ予測、リターン予測、合成データ生成といった重要な定量的ダウンストリーム目的関数への適合が不十分であること。

Kronosは、純粋に金融市場データのみで訓練された専用のオープン基盤モデルとして、このギャップを埋めるものです。

主要なアイデア

  • 離散化と生成による言語モデリング(Discretize-and-Generate Language Modeling): 外れ値やフラッシュクラッシュに脆弱な回帰目的関数で連続的な浮動小数点数を予測するのではなく、Kronosは連続的な市場観測値を離散的な語彙へと量子化し、予測を次トークン生成として再構成します。
  • Binary Spherical Quantization (BSQ): 超球面射影を適用することで期待再構成歪みの有界性()を保証し、ファットテールなマイクロストラクチャの変化に敏感な角度情報を維持しながら、外れ値の影響を抑制します。
  • 階層的サブトークン分解(Hierarchical Subtoken Decomposition): という巨大な語彙によるメモリオーバーヘッドを回避するため、Kronosは ビットのコードを 個の等しいサブトークン(、サブ語彙サイズ )に分割します。大局的な構造を捉えるcoarseサブトークンと、残差の詳細をエンコードするfineサブトークンです。
  • 大規模事前学習: 1分足から週足まで7つの時間粒度にまたがる、世界45取引所の120億件以上の観測値からなる精選されたマルチアセットコーパスで事前学習を行っています。

手法

Kronosは主に2つのフェーズで動作します。

1. インスタンスベースのK-lineトークナイゼーション

各連続多変量観測値 は、離散コード (ここで )へとマッピングされます。トークナイザー(3層のTransformerエンコーダー・デコーダー)は以下のように最適化されます。 ここで 、 であり、 はBSQコミットメントおよび球面正則化損失です。

2. 階層的自己回帰モデリング

因果的アテンション(causal attention)とRotary Position Embeddings(RoPE)を備えたデコーダーオンリーTransformer()が、過去の融合トークン埋め込みを処理します。 隠れ状態 を条件として、生成は連鎖律を用いて分解されます。

  • Coarseヘッド:
  • Fineヘッド: サンプリングされた予測値 がクロスアテンションを介してコンテキストを更新します。 全体の事前学習目的関数は負の対数尤度となります。

実験結果

3つのモデルバリアント( 24.7M、 102.3M、 499.2M)で評価を実施しました。

  • 価格系列予測: 11のグローバルアセットテストスイートにおいて、 は平均IC 0.0440、RankIC 0.0267を達成し、最良のゼロショットTSFM(: RankIC 0.0138、93%向上)および最良のフルショットモデル(TimesNet: RankIC 0.0143、87%向上)を上回りました。
  • 実現ボラティリティ予測: は平均MAE 0.0370、 0.2624を達成し、計量経済学の専門ベースライン(GARCH MAE 0.0405、約9%のエラー削減)や他のTSFMを凌駕しました。
  • 合成データ生成: 識別分類スコア(0.50が見分けがつかない状態)において、 は0.3048を記録し、DiffusionTS(0.2504、忠実度が相対的に22%向上)を上回りました。Train-on-Synthetic, Test-on-Real (TSTR) では、合成系列がより高いダウンストリームRankICをもたらしました(DiffusionTSの0.0102に対し0.0282)。
  • 投資シミュレーション(中国A株): 取引コスト(0.15%)を考慮したCSI 300 / CSI 800ユニバースでのバックテストにおいて、 は平均年率超過リターン(AER)20.84%、インフォメーション・レシオ(IR)1.6491を記録し、25種類のベースラインすべてを上回りました。

限界と今後の課題

  • 最大コンテキスト長: メモリの制約から512トークンに制限されています。マルチ周波数アライメントによって部分的には緩和されるものの、長文コンテキストウィンドウのスケーリングは未解明のままです。
  • 推論レイテンシのトレードオフ: 2つのサブトークンへの分解により、タイムステップごとに2回のシーケンシャルなフォワードパスが必要となり(並列予測と比較してレイテンシが2倍)、テスト時のモンテカルロロールアウト(例: )は推論計算量をさらに増加させます。
  • オーダーブック / L2情報: 事前学習はOHLCVAバーに限定されています。板情報(L2リミットオーダーブック)やニュースセンチメントなどをトークン埋め込みに直接統合することは、今後の重要な研究課題です。

重要用語

K-line
一定の時間枠(バー)における始値、高値、安値、終値、出来高、売買代金(OHLCVA)を記録した多変量ローソク足系列。
Binary Spherical Quantization (BSQ)
二値化の前に連続的な潜在ベクトルを単位超球面に射影し、最大再構成歪み誤差を有界にするベクトル量子化手法。
Coarse-to-Fine Subtokens
20ビットのトークンをそれぞれ10ビットのcoarse成分とfine成分に均等分割し、階層的再構成損失によって学習させる2系統のコード因数分解。
RankIC (Rank Information Coefficient)
資産のクロスセクション全体における、モデルの予測値と将来のグラウンドトゥルース実現値との間のスピアマンの順位相関係数。
Train-on-Synthetic, Test-on-Real (TSTR)
生成されたデータ上で予測モデルを学習させ、実世界のテストセットで評価することで、合成データの有用性を検証する評価プロトコル。
Test-Time Scaling
推論時に温度(temperature)やtop-pサンプリングを用いて複数の確率的ロールアウトを生成し、デコードされた軌道を平均化することで予測分散を低減する手法。
Exposure Bias Mitigation
訓練時のクロスアテンションにおいて、教師強制(teacher-forcing)による正解値の代わりに、モデル自身が予測したcoarseサブトークンをサンプリングして用いる手法。

よくある質問

なぜ金融時系列データに対して連続回帰ではなく離散トークンを使用するのですか?

離散化を行うことで、フラッシュクラッシュなどの極端な外れ値に対する最大再構成誤差を抑え、市場ノイズへの過適合を正則化できるほか、高次元の連続的遷移を離散状態遷移モデリングへと再構築できるためです。

Kronosはなぜトークンをn=4やn=5ではなくn=2のサブトークンに分割するのですか?

n=1からn=2に移行することで、語彙パラメータを99.8%以上削減できます(ベースモデルで約1.7Bから3.4Mへ)。n=2を超えて分割してもパラメータ削減効果は薄れる一方で、融合層のパラメータ増大によって相殺され、さらに自己回帰生成のレイテンシが線形に増加してしまうためです。

出来高(Volume)や売買代金(Amount)のデータが存在しない資産はどのように処理しますか?

事前学習中、入力の5%で出来高と売買代金の特徴量をランダムにゼロマスクしています。これにより、暗号資産や為替の実験で見られるように、出来高が取得できない場合でもOHLC入力のみから正確な価格予測を行う正則化効果が得られます。

異なるダウンストリームタスクにおいて、どのようなサンプリングハイパーパラメータが最適ですか?

予測タスクでは精度を優先するためにシャープな分布(T ≈ 0.6、top-p = 0.90)とモンテカルロ平均化(ロールアウト数 N = 10)が適しています。一方、実現ボラティリティ予測や合成データ生成では、系列の多様性を確保するためにより高いエントロピー(T ≈ 0.9–1.0、top-p = 0.90–0.95、N = 1)が適しています。

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